< 蝉の終わり >
気が付けば9月になっていました。
気が付けば草むらからハラオカメコオロギの羽音が聞こえています。
気が付けば夜空が澄んできたように思えます。
もう9月になっていました。
今日はセミの羽を拾ってきた年長の男の子と話しました。
「先生、これは何の羽ですか?」
「あーー、これはアブラゼミの羽です。」
「拾ったよ。」
「どこで拾ったの?」
「サッカーゴールのところ。」
「そうか、もうセミも終わりだね。命を全部使って夏を過ごしたんだよ。」
「ふーーーん。これ持って帰っていい?」
「うん、いいよ。では袋に入れて、名前と拾った場所と日にちを書いてあげる。そうすれば夏の宝物になるよ。」
こうして渡したアブラゼミの羽はいつまでお家で保管されるでしょうか。
隣で見ていたもう一人の男の子が、「こんなの宝物にならないよ。だってパパがすぐ捨てるもん!」
「・・・」
気が付けばセミの鳴き声が聞こえなくなり、秋が深まっていくのでしょう。
羽を受け取った男の子はお兄さんが卒園児で、私はそのお兄さんとよく職員室でお話ししていた子の弟さんでした。
セミを渡しながら、「お兄さんによろしくね!」と言ったら、嬉しそうな顔をしていました。
過行く季節の哀愁と、昔ここで育った子の思い出と、賑やかな朝がしんみりと心に響いた今日でした。