< 渡る鳥たち >
すっかり日暮れが早くなり、もうこの時間は真っ暗ですが、どこからか鳴き声がしました。
「うっ、この声は鳥だ。どこだろう。今の時期、そして既に日暮れ、とすると渡る鳥たちだ。」
瞬間的に空を見上げる。何もいない。でも声は聞こえる。
じっと目を凝らし、暗闇に目を慣れさせるとわずかに見えてきた。
白い影が弓なりに編隊を組み、西へ西へと動いて行く。その数は20羽弱か。
これだ、正体は!
渡る鳥たち。人知れず夜の闇を命を繋ぐために何千キロもの旅をする。
グワーグワー とくぐもった鼻声のような響きを時折発しながら、彼らは飛んで行った。
暗闇で双眼鏡も持ち合わせず、その種別は分からないが、白い影であった事、編隊を組んでいた事からカモ類と思われる。
カモだとすると、遠く遥々日本へ渡って来た事になる。
夜の闇で鳥たちの声を聞くことにも、壮絶な野生の息吹を感じます。
そこで、こんな童謡をどうぞ。
里の秋
作詞:斎藤信夫 作曲:海沼 実
♪ 静かな静かな 里の秋
お背戸に木の実の 落ちる夜は
ああ 母さんと ただ二人
栗の実煮てます いろりばた
♪ 明るい明るい 星の空
鳴き鳴き夜鴨の 渡る夜は
ああ 父さんの あの笑顔
栗の実食べては 思い出す
♪ さよならさよなら 椰子の島
お船にゆられて 帰られる
ああ 父さんよ 御無事でと
今夜も母さんと 祈ります
この曲は昭和20年12月にNHKラジオから発表されたようです。
渡り鳥である鴨たちが、秋の空を渡っている事が曲になっているなんて、
先人たちは人の生活に生き物たちの生態も重ね合わせていたのですね。
彼らはどこへ向かったのでしょうか。
父さんだけでなく、彼らの無事をも祈らずにはいられません。